歴史のとびら⑤ なぜダッチワイフと呼ばれるのか

 辞書によると、ダッチワイフには二つの意味がある。一つは竹夫人(南洋地方で暑熱の苦を軽減するため寝床で使う藤製などの手足載せ用まくら)とあり、もう一つは性的な目的で用いる代用女性人形とある。有名なのは後者の意味である。
 なぜ代用女性人形にダッチという名がつけられたのか。ダッチと名のつくものはこの他に、ダッチアカウントあるいはダッチペイ(割り勘)・ダッチコンサート(騒音)・ダッチバター(人造バター)・ダッチロール(ものすごい横揺れ)などがあり、ダッチは悪いものの代名詞として英語で使われている。
 英語の語源辞典によると、ダッチとは、ライン川の河口地方に住むドイツ人一般、あるいはドイツ語を意味することばで、古代ローマ人がそう呼んでいた。その起源はケルト語に由来するが、時代がくだるに従って、オランダを指すようになっていった。オランダは俗称で、公式にはネーデルランド王国である。ネーデルランドとは低地を意味する言葉で、なぜオランダと呼ぶのかと言うと、オランダは、七つの州から成り立っておりその中心となった州名がホラントであったことから、オランダと呼ばれるようになったのである。では、なぜダッチが悪いものの代名詞となったのか。
 オランダが彗星(すいせい)のごとく登場してきたのは、スペインから事実上の独立を達成した16世紀末から17世紀はじめのことである。オランダ商人は、スペインが握っていた東西両インド貿易になぐりこみをかけ、1595年には、最初のオランダ商船隊がジャワに到着する。
 1602年、オランダ各地の都市に生まれていた東インド貿易商社が合併されて、株式会社の起源と言われるオランダ東インド会社が設立された。この東インド会社は、イギリスに比べ10倍の資金を集め、17世紀のオランダの繁栄を築いたのである。
 当時、アジア貿易でもっとも利益のあったものがスパイスである。とくにクローブやナツメグは高価であり、コショウの10倍の値段で取引されていた。そして、クローブやナツメグの主産地がモルッカ諸島やバンダ諸島など、いわゆる香料諸島と呼ばれる島々であった。
 オランダは、香料貿易を独占するために、これらの島々に艦隊を送り、土着君主にせまってオランダとの単独取引契約を結ばせた。このような過程で起こったのが1623年の「アンボン虐殺事件」である。
 この事件は、イギリスがアンボン島にあるオランダの城塞を奪取する陰謀をおこなったとして、イギリス人10名とそれに加担した日本人9名が斬首の刑に処せられたものである。しかし、この事件は、オランダ側がイギリス勢力を打倒し、香料諸島を独占しようと企てたでっち上げ事件であり、のちのちまでイギリスがオランダを憎む原因となった。
 オランダの世界商業の覇権に対して、市民革命を達成したイギリスは、強引に戦いを挑んできた。それが、1651年にクロムウエルが出した「航海条令」である。これをきっかけとして、1674年までに3回の蘭英戦争がおこなわれ、イギリスの勝利に終わるのである。
 オランダの敗北の要因には、海軍力の弱さや分権的な政治体制があげられる。それと関連して、次のような理由がある。オランダ商人は、商業貿易で獲得した富を自国に投資せず、より利潤の高い投資先を求め、敵国であるイギリスに投資した。イギリスはその資金で海軍力を充実させることができ、オランダに勝利をおさめることができたのである。
 ダッチワイフということばの背景には、このようなイギリスとオランダとの対立の歴史がある。
          参考文献  浅田實著 『東インド会社』 講談社現代新書 1989年
 
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by YAMATAKE1949 | 2011-09-12 10:24 | 歴史のとびら | Comments(3)
Commented by nobu-fujii at 2011-09-13 07:34 x
言葉は知っていても知らなかった事がいっぱいあります、また、お願いします。
Commented by YAMATAKE1949 at 2011-09-13 10:37
他国を軽蔑してつくられたこのような言葉は、なくさなければなりませんね。コメントありがとうございます。
Commented by q at 2017-04-29 14:47 x
はじめまして、こんにちは。とても勉強になりました!